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東京高等裁判所 平成11年(く)21号 決定

少年 Z・P(昭和54.2.26生)

主文

原決定を取り消す。

本件を横浜家庭裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告の趣意は、少年作成名義の抗告申立書に記載されたとおりであるから、これを引用する。

論旨は、要するに、少年を中等少年院に送致した原決定の処分は著しく不当である、というのである。

そこで、検討するに、本件は、少年が、小学校時代からの幼なじみである原判示のAと共謀の上、遊興費等を得るため通行人から金員を喝取しようと企て、原付自転車に乗って通勤途中の被害者の進路前方に少年運転の自動車を停車させてその通行を妨げた上、同人に対して、「お前、Bだろう。」などと架空人の名前を出して因縁をつけ、その顔面を手拳で殴打するなどして二人がかりで右自動車に乗車させ、同車内にあった金属バットのグリップ部分でその左側頭部を小突くなどの暴行、脅迫を加えて金員の交付を要求し、同人から、その所持していた現金6,000円、2回にわたって銀行から引き出させた現金合計41万9,000円(総計42万5,000円)を喝取し、その際右一連の暴行により、同人に全治約一週間を要する左側頭部打撲等の傷害を負わせた、という事案である。

極めて安易で身勝手な犯行であり、動機に同情の余地は全くない上、その犯行態様は、被害者に対して、いわば密室状態といえる自動車内等で2人がかりで暴行、脅迫を加え、約2時間にわたって同車に乗せて連れ回し、当時の所持金及び引き出し可能な預金のすべてを奪い、傷害まで負わせたというものであって、甚だ悪質であり、結果も重大である。少年は、Aに誘われて本件を敢行したのであるが、犯行に使用された自動車を運転し、同人に呼応して金員を要求し、自ら被害者の顔面を殴打する暴行を加え、喝取金を同人と折半しているのであるから、相応の責任を免れないのは当然である。鑑別結果等によると、少年の主体性の乏しさ、未熟さが指摘されており、状況によっては再犯のおそれすらあることも否定できない。

以上のような諸事情を総合すると、少年の要保護性は相当に高く、原決定が、少年の健全な育成のためには、一定期間施設に収容して、内省を深め、問題解決能力を身につけさせて、社会的自立性を養う必要があるとし、一方少年が指導に従う素直さを持ち合わせていること等をも考慮して、一般短期処遇の勧告を付した上、少年を中等少年院に送致したこともあながち理由のないことではない。

しかし、他方、記録によると、少年は、これまで家庭裁判所の係属歴はあるものの、その内容は中学時代の放置自転車の横領や、バイクの定員外乗車といった比較的軽微なもので、いずれも不開始あるいは不処分で終了しており、保護処分に付されたことはないこと、本件は、Aに誘われて敢行したもので、傷害の直接の原因となった金属バットによる暴行は同人が加え、金員要求行為も同人が中心になって行っており、少年は同人に比して従属的立場にあったといえること、そして、少年が他にも同様の行為を繰り返していたなどという事情は全く窺えない一方、少年は既に20歳直前に達していて定職に就いており、両親の賛同を得るには至っていないものの、24歳の女性と同棲して曲がりなりにも家庭を構え、2人の収入だけで生活しており、原決定が指摘する少年の問題性は本件を除けば非行として顕在化しておらず、本件は一過性のものとみられること、少年は犯行後被害者に同情して金1万円を返還しており、この点でも非行性が根深いものでないことが窺えること、少年が事実関係を認めて反省し、雇い主が再雇用を約束してくれているなど更生の環境も一応そろっていること、本件の被害はすべて賠償済みであることなどの諸事情が認められ、これらの事情を総合すると、前記年齢、境遇にある少年を少年院で処遇することがその更生のために真にふさわしいものであるかどうか疑問なしとせず、少年に対しては、保護観察に付して在宅による更生の機会を与える余地が残されているというべきである。そうすると、右の措置を取ることなく直ちに少年を中等少年院に送致した原決定の処分は、著しく不当であるといわざるを得ない。論旨は理由がある。

よって、少年法33条2項、少年審判規則50条により、原決定を取り消し、本件を原裁判所である横浜家庭裁判所に差し戻すこととして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 島田仁郎 裁判官 下山保男 福崎伸一郎)

〔参考1〕 送致命令

決定

本籍 東京都世田谷区○○×丁目×××番地

住居 同稲城市○○×××番地×○○コーポ×-×××

豊ケ岡学園在院中

少年 Z・P

昭和54年2月26日生

右少年に対する恐喝、傷害保護事件について、平成10年12月18日横浜家庭裁判所がした中等少年院送致決定に対し少年から抗告の申立てがあり、当裁判所は、平成11年1月21日原決定を取り消し、同事件を横浜家庭裁判所に差し戻す旨の決定をしたので、更に少年審判規則51条1項により、次のとおり決定する。

主文

豊ケ岡学園長は、少年を横浜家庭裁判所に送致しなければならない。

(裁判長裁判官 島田仁郎 裁判官 下山保男 福崎伸一郎)

〔参考2〕 原審(横浜家 平10(少)6506号 平10.12.18決定)〈省略〉

〔参考3〕 処遇勧告書〈省略〉

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